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まず、2年半待っててよかったと思いました。私は荒野の恋の桜庭一樹の文章が好きなので、変わってなくて嬉しかったです。

『荒野の恋』というシリーズは桜庭女史が取り組んできたエレクトラ・コンプレックス(親殺し)の小説の集大成だと思いました。ぶっちゃけた話、エレコン物は『私の男』と『赤朽葉家の伝説』で完成されていたと思い込んでいました。が、それを上回る作品が登場するとは……。
主人公の荒野は小説家の父親・正慶と、お手伝いの奈々子さんと暮らしています。中学入学時、荒野は悠也に出逢い、一目ぼれをします。しかし奈々子さんは家を出て、その代わりに悠也の母である蓉子さんがやってきます。荒野は突然の事実に戸惑いながらもなんとか馴染んでいます。そして念願の妹、鐘が誕生し、父の恋愛小説『涙橋』も賞を受賞して家は一気に賑やかになります。しかし、荒野は成長していくこころとからだ、そして恋愛にまだまだ戸惑うばかり。そんな折、蓉子さんは鐘を連れてフェードアウトしてしまいます。悠也との距離は遠いようで縮まっていきますが、家の中は打って変わって虚無が支配するただ静寂な空間となります。
『荒野の恋』は文章がとてもよいのです。「女の脂」、「泣いているような朧月」など、一語一句がとても磨かれています。飛び上がるほど詩的な言葉を、まずは味わってみてください。
さて、内容の話にうつります。何故『荒野の恋』がカサンドラ・コンプレックスものかというと、成長小説だからに決まっています。成長というのはつまり親からの心理的離乳で、それが形式上の「親殺し」を意味しています。第三部では初期作品のような成長への葛藤が描かれた後、実際に成長していく姿が描かれています。第一部ではテーブルの上にあった「おんな」を取ることが出来たという訳ですね。「親殺し」を示唆するのは蓉子さんの家出と、空虚になった家庭というシーンにもあります。蓉子さんの家出はまさに荒野の世界から母親の存在がデリートされることを意味していますし、空虚になった家庭は独立直後の心情にも似ています。物語は荒野が蓉子さんを取り戻すところで終焉しますが、ここでの二人の立場は逆転していて、つまり荒野が蓉子さんを導き、待ち構える社会と向き合う決意を表現する構図になっています。また、荒野と悠也の交際も、歳を重ねるにつれだんだんとさらさらした「おんな」の交際に変容しています。普通、この手の作品ではセックスを用いて安直に「成長」させた風にするのがお決まりの手法ですが、それを使わずにものの見事に成長を描ききった部分は凄まじいです。いずれ訪れる社会と向き合うということ。難しいテーマを、あえて子供の視点で描いたところにこのシリーズの最大の魅力が隠されています。
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